これならわかる国際政治:「キューバ」という国

キューバの医療は異常なほど高度です。ひとづてに聞いた話によれば、どっかで自然災害が起きると医療チームをよく送ってくれる。しかも現地に医療機器を無償で提供してくれる。よくキューバ医療の解説書ではその一端を肯定的に描いたにすぎないものが多いけれども、そのうちのどれもがそれなりの出来だったりする。経済基盤は弱く、サトウキビに頼るひとつ産目のモノポリー経済であるけど、その最貧国にあっても医療ケアとマネジメントだけはどこの国にも負けることはない(だからよく有名人が心臓移植に行ったりする)。

これは自助努力・自己責任を標榜する多くの先進国では数奇なことです。現に同じく共産圏であるソビエト連邦ではエマニュエル・トッドが指摘したように、崩壊までに乳児死亡率が高まったし、ソビエトが崩壊した後の旧共産圏での自殺率は異様に高く、異常なほどの統計データです。トッドはソ連の崩壊を乳児死亡率という社会でもっとも弱い基盤に追い求めて、論理を作りました。

もともとキューバは伝統的に先住民族の国です。弱い戦闘力しかない先住民はスペイン人の遠征軍により虐殺されて、支配された。ただ、スペインの恩恵もあったといえるでしょう。それがいまだに代表的産目であるサトウキビ、これは皮肉にもスペインの植民地時代に作られた特産品の文化だったわけです。一方、葉巻特産品の文化も無論忘れられない。じゃあ、キューバが共産国としてここまで成功したのはなぜなのだろう?中国も国際的には成功した例(市場主義を取り入れたうえで共産主義を打ち立てた)だけれども、彼らとの違い・安定感はどこで生まれたのだろう?

これにはまず、キューバの天才的なカリスマであるカストロの存在。それはおそらくユーゴスラビアのチトーと同じ存在感であると思います。ユーゴも共産主義の国だったけど、チトーのカリスマ性で安定的な政権はあった。その反面チトーが死ぬと、ユーゴは分裂し、民族同士で撃ち合い斬り会い罵り合ったのです。おそらく、フィデル・カストロ議長のカリスマ性はかなりキューバの安定的な共産政権に寄与していると思います。カストロの偉大さはその生まれとか教養にも表れているわけで、すくなくとも思想的には彼の存在自体がキューバなのだろうな、とも。だから、カストロは民心からも多くの支持があり、なが~い演説でも知られる。そして、その人間性は尊敬すべきものだと私も思う次第です。

そして実直な精神性こそキューバの理想を建前といえども作ってきた。国民感情が極めて互恵的で、教育・医療・福祉といった分野で先進的なマネジメント政策を国民合意の下でしっかりと国で作ってきた。それが共産系社会主義の理想であり、それを実現するために国民はたゆまぬ努力をしてきたのだろうと思います。中国が市場経済を限定的に取り入れたり新しいモメントを盛り込むことで「格差ある共産主義」を実現したのに対して、キューバは精緻な論理でアメリカに反発して、「格差なき共産思想」を作ったんです。おそらくこれが一番のキューバの共産圏としての成功の一案だと思います。ソビエトの本質は暴力であり、人間本質の悪魔だったわけです。ここがおそらく中国との差異、あるいは毛主義・ソ連スターリニズムとの大きな差異であると思います。

ゲバラは医者だったし、カストロは弁護士だった。彼らの精神性はいまだ生きている。その職業に似合わず、にもかかわらず、人権問題や民主化問題など、そのはしりでは東西冷戦の核戦争の危機をめぐって、アメリカとは長く対立してきた。けれども、オバマがいうように「キューバは雪解け」たといっていいでしょう。段階的に話し合いの立場を構築することで、合意して、日本からも安倍首相が訪問するそうです。これにはおそらく裏の考えもあると思います。もしキューバに限定的に民主化が実現したら、おそらくキューバは高度な先進性を持つし、その一方で共産主義の理想はある程度は捨てないといけないけど、おおらかな思想が国を形作るその国民性には変わりはないと思う…。

補足説明。よくグアンタナモ基地といわれるけれども、これはアメリカが租借していた旧キューバの土地だった。今でも海兵隊の基地があって、そこにはアメリカ軍兵士が駐在しているらしい。キューバが共産圏に入る前に租借したため、このあたりの勘違いは多いようですが、グアンタナモというのはキューバのアメリカの政権下時の永久租借地なんです。お間違いないよう…。あとご存知、野球のナショナルチームは有名ね。

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