マジで恋する書籍レビュー:秋山瑞人最高傑作は「イリヤ」ではなく、「鉄(くろがね)コミュニケイション」

人類滅亡っていうテーマはすごくモチーフにされやすい。でもでも、秋山の筆致はそういうモチーフを超えて設定を超えて…胸に来るものをやっぱ書いてくれる。確かに純文学界からの評価は皆無に等しいが、同人文化により近しいSF大会がらみの話題では一時期秋山話が席巻したことがある。これはラノベ読者にとってはうれしいことだ。京大出身の新潮社の兄貴こと大森望も法政卒の秋山(「蛇にピアス」で有名な金原ひとみ嬢のお父様金原瑞人ゼミ出身)を絶賛してくれる。

秋山の作品もといラノベに接する機会が増えたことというのは、やっぱ「イリヤ」がらみだというひとは多い。そうだけれども、傑作は二部構成のこの「鉄(くろがね)コミュニケイション」だろう。核戦争後、人々の交流が途絶えた世界でハルカという少女とアンドロイドたちが生きるために必死で苦悶するという準アクションラノベである。アクションつってもそんなにアクションは濃くなくて、やっぱしラノベで重要視される心理描写を独特の「地の文」で描き切った作品である。しかも自然体な文章でラノベ特有のくせのある文章ではない。「イリヤ」で有名になる前からコンスタントにこのレベルのラノベ書ききってるこの人の筆致はすごいものがある。

ハルカは道中でイーヴァという自分そっくりのアンドロイドに出会う。このアンドロイドは実は意図してハルカに化けている少女であって、そこらへんが肝となってくる。ルークという強襲用ロボットがお供になってて、絆がどういった経緯でどういう関係性で再構築され、人間や感情が確かにそこにあるかを論理的に、エゴの中で登場人物自身が表現するといった内容。ルークは本来仲間であった、チェスの駒を連想させる、ナイト・ビショップに追われる身。ロボット同士アンドロイドも絡んだ戦いが今始まる。小説のおおまかな内容はこれだけ。だけれども感情論をエゴとともに自然に表現された小説はやっぱ同著の「イリヤ」や「EGコンバット」を超えていく。

秋山の最高傑作はやっぱりこの作品だと思う。ルークのイーヴァを救う決断、広告に彩られていた核戦争前の世界、ハルカが感じていたこと。そして、地下に埋まったボックスの中に秘められた秘密のプレゼント。象徴表現とあいまって物語が希望を描き出し幕を閉じる。ルークやナイトも絡んだみつどもえ式のアクションシーンは大胆に目に浮かぶようでそれでいて内実の文に秘められた繊細さを感じる。それが自然に終幕に向かっていきルークは”卑怯者”であるイーヴァと道を同じくすることを導き出す。「あれかこれか」といったところから出会いと別れの結論を導き出すんだ。人間よりも卑怯で、より大きな”いさおし”を運命の中で背負ったものたちを描くということは、テーマ的には古典的な実存主義に基づいたものでもある。

ハルカは信じている。棒の倒れた先には、きっといいことがある。飛車丸とずっと一緒に暮らせる場所が、きっとある。飛車丸はハルカを乗せて、海原のような麦畑の中を、飛ぶような早さで駆け抜けていく。それは、軍靴の足音が、ようやく聞こえ始めたころの物語。それは、この足音が、ようやく聞こえ始めたころの物語。それは、この星が、すみからすみまで広告され、照明されていた時代の物語。~ハルカの血が憶えている物語だ。(p382~より)

そういう古典性から、確かに今ある「希望」をラノベ調にしながら、ちょいとアレンジが効くこの小説はラノベの領域をもう拡張してしまった作品だと思う。こういうラノベが少なくなったのは残念だし、こういった傾向が続けば純文学からの評価も桜庭嬢みたいに得られたのかもしれないが、あまりにそれは遠い道すぎて、秋山瑞人にしか描けない結末があるように私は感じている。ちなみに秋山はこの後大ブレイクするも「俺はミサイル」という短編をほぼほぼ最後に作家活動は旺盛にできていない。まことに残念なので、EGのほうの完結作もしっかりと見たいと思う。先生、お願いしますよ!

(;=∀=)<俺も持ってる第一巻が絶版で二万円の値段がついとるぞ…。復刊もお願いします…。

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