マジで恋する書籍レビュー:「サンドイッチの歴史」ビー・ウィルソン―サンドイッチ伯爵起源説は史実なのか?

本書は史実の中のサンドイッチの定義を振り返った、おそらく世界で最初かつ完全な歴史書である。食歴史専門の権威によるシリーズの中で、この本は一番有名だといっていいだろう。ウィルソンは本書の中で、いわゆる「サンドイッチ起源説」(サンドイッチ伯爵が賭け事に熱中するあまり「サンドイッチ」を考案したという通俗説)を、見当違いとしている。その歴史的な意味合いは複数ある。それを簡単に列挙しよう。

・まず、そもそもサンドイッチ自身の定義にしたがって歴史を振り返ると、サンドイッチなるものの定義はあいまいであり…

・しかも、サンドイッチが考案されたのは完全な歴史的不定問題であり、紀元前までにさかのぼることすら不可能ではない。

としている。さらにサンドイッチ伯爵ことジョン・モンターギュは、

・賭け事に熱中するほど(貴族としては)金持ちだったとは思えない事実があり…

・たしかにサンドイッチ伯爵が賭け事にも興味を抱いていたのは事実だが、その程度は当時としてはふつー程度だったし…

・しかも海軍の大臣など重職を多く担っていたので賭け事に熱中している暇などなかったはずである。

としている。このサンドイッチ通俗説をウィルソンは批判しているといっていいだろう。本書の中で一番興味深いのはこのサンドイッチ通俗説が真偽かどうかということを論じた章だ。それは今後もはっきりいって「わからない」。というのもパンに肉やチーズを挟んだ食事はいくらでもあり、歴史的に考案されてきた史実はある。よって、いつだれがサンドイッチなるものを「サンドイッチ」という、今では一般的な言葉による定義に決めたのか?という歴史的に再定義できないという不動論があるわけだから…そのようにウィルソンは言っている。

よって、サンドイッチ通俗説をフランス文芸家によるゴシップや誤りの類とし、あくまでそれまでとはいわないまでも、その定義の程度を理解できないものだとするのが歴史学の中でサンドイッチのありかたの常識的な見方だとする。本書の中で肝となっているのはこの章だけで、ぶっちゃけほかのサンドイッチ歴史学の部分はアカデミックな部分としてはどうでもいい(無論、他章も興味深いことは事実だが)。実際、ウィルソンの解釈に基づいていえば、Wikipediaのサンドイッチの項目もまた「間違っている」し、少なくとも本書でしっかりと歴史的な不定な定義がなされるまでは「間違ってい”た”」はずである。

この部分は本書がほかの通俗な書物と違い情報的な史実を振り返るうえで、極めて重要な歴史書になっているといっていいのだ。本書はサンドイッチの歴史をめぐってサンドイッチという言葉自体・あるいはサンドイッチという存在、といった哲学衒学的な「通路」に迷いがちな我々通俗人にとっては、むしろ痛快な読み物になっている。そういう意味で、ありとあらゆる歴史学者はこの章(第一章・サンドイッチ伯爵起源説を検証する)だけはぜひ読んでおきたいものと、そう結論づけられるだろう。

要するにサンドイッチ伯爵がサンドイッチを考案したか、については批判はできる。さらに、彼が定義したかどうかについては一生解決できない不定な歴史的問題であるのだ。

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